ブラジル日記

ブラジル経済の主要話題や各産業セクターの実情等、現地報道と体験に基づく考察。

どうなるペトロブラス(2)

ペトロブラスの話題で最近盛り上がっているのはその株価の下落具合です。様々なスキャンダルに加えて原油価格の下落によりペトロブラスの株主は大打撃を受けています。

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まず、少し前の記事ですが、ブラジルのFolha de São Paulo(ブラジルで一番大きい総合新聞)にペトロブラスがジルマ政権時代に最も株価が下落した企業として選ばれました。記事によると、2010年12月31日には時価総額が約1,150億ドル近くだったにも関わらず、2014年11月24日には約550億ドル迄下落したとのことでした。また、同じくブラジルの有力紙であるEstadãoはモルガン・スタンレー社の試算を掲載し、現在も続いている一連のスキャンダルによってペトロブラスから最大70億ドル程度の資金流出の可能性があることを報じました(これは2014年のペトロブラスの純利益と同等レベル)。また、多くのアナリストもペトロブラス株の推奨を取り下げる中もっともダメージを受けているのはもちろん最大株主のブラジル政府です。さらに、政府系銀行である社会経済開発銀行(BNDES)(日本でいう日本政策投資銀行の位置付け)もペトロブラス株を10%保有していますので、政府にとっては大変頭の痛い問題です。

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一方で世界的に話題になった27日のOPEC総会での石油減産見送りもペトロブラスの状況に大きく影響を与えています。ブラジルという国は前回の記事にも書いた通り、プレソルトと呼ばれる大水深の油田開発を進めてはいるものの、原油の輸入国です。社会の教科書等でご覧になった方もいるとおもいますが、ブラジルは原油の獲得に過去から大変苦労しておりその過程で政府としてエタノール研究に大変力を入れてきました。そのため、現在はブラジルのガソリンスタンドには必ずガソリンとエタノール両方が販売されています。因に、ブラジル人に言わせるとエタノールはガソリンより走行距離が3割減らしく、ガソリンとエタノールの価格差(エタノールの方が安い)が3割を越えるとエタノールに経済性があり、3割未満ですとガソリンに経済性があるらしいです(レンタカーなどはどちらを入れて返却しても大丈夫ですので、大方価格の安いエタノールが使用されています)。

話が逸れてしまいましたが、上記のプレソルト油田はブラジルにとって虎の子の開発地区ではあるのですが、沖合、大水深という難易度の高さから、どうしても開発コストが高くなってしまいます。さらに、ロイヤリティ10〜15%の支払いに加え、参加割当を最大で純利益の40%支払わなければならないリブラ油田においては、損益分岐点が1バレル当たり60〜70ドルと言われています。12月1日のブレンド価格が1バレルあたり67ドル〜72ドルで推移していたので、上記損益分岐点の分析が正しいとすると(あくまで原油価格がこのまま下落もしくは60〜70ドル近辺に落ち着くとすると)将来ペトロブラスが見込んでいる収入は大幅に落ち込むこととなります。ついでながら、ペトロブラスは2018年までの原油価格を1バレル102ドル前提で事業計画を策定していますので、計画は下方修正されるというのが市場関係者の見方のようです。

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国民の生活で気になるところはやはり自動車に使用するガソリン価格ということになるのですが、従来からブラジルのガソリン価格は物価上昇是正の為、政府の補助金対象となっています。具体的には、ガソリン等を海外から購入した価格より安い値段によってブラジル国内で提供し続けていました。すなわちガソリン価格は市場価格を反映していない状況がずっと続いていました。そして今回もまさに原油価格が下落している中で、市場とは無関係に政府の意図でガソリン価格が上昇しています。その理由は上記の通り政府が大株主であるペトロブラスの収益見通しに暗雲が垂れ込める中、その利益を確保する為なのです。